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2012年1月20日 (金)

SAPIM 最高で最強のスポークを求めて

Photo SAPIM 最高で最強のスポークを求めて

何かとこだわるNRSだが、その中でもスポークはかなりこだわっているかもしれない。

ホイールの一構成パーツであるスポークは高い強度、軽さ、空気抵抗の少ない形状という三要素を高次元で満たすことが重要だ。

NRSでは、元々はスイスのDTスポークをオーダーホイールに使用していた。

1dt
国産スポークと比較して、なんせ折れないし飛ばない(スポークの首が折れる事を゛飛ぶ゛と言う)。

欠点は使いたいモデルの必要なスポーク長がなかなかそろわないことと、値が高いことくらいだ。

スペシャルオーダーされたホイールにはDT Revolutionの1.8-1.5-1.8を使用して軽量で高剛性なホイールを造ってきた。

1dtrevolution当時はエアロスポークなどは取り扱い長が少なく入手が困難だったため、ホイルビルドに用いる事は出来なかったのだ。

NRSがSAPIM(サピム)スポークを知ったのは、クワハラバイクワークスからのファックスだった。2002年あたりだったと記憶している。
新商品の取り扱い案内のファックスにサピムスポークが記載されていた。
しかしそのファックスでは、単なる丈夫なスポークとだけ紹介されているだけだった。
今では誰もが知っているCX-RAYの情報も、クワハラからのファックスにはなかった。

その時NRSは、DTからSAPIMへ使用するスポークメーカーを変更する気にはなれなかった。

"SUPER ZIPP"をデザインするにあたり、エアロスポークの使用は大前提だった。
当初使用する予定だったaeroliteは下図のような2.0/2.3×0.9/2.0の形状をしている。

1dtaerolight_2 Dtaerolight_2

DTスポークの材質は全てドイツ工業基準DIN-79100のステンレスであり、aeroliteを使用した事は無かったが、過去の経験から強度面での不安は感じなかった。

その後、国内の代理店で、"SUPER ZIPP"で必要になるaeroliteの手配をしたが、取り扱スポーク長のレンジがせまく "SUPER ZIPP"で必要なスポーク長は国内で手配することが出来なかった。

そこで、インターネットを使って、適切な長さのaeroightを入手すべく探しまくった。
一晩かけて、アメリカのサイトでaeroliteを㎜単位で販売してくれるところを見つけた。
しかし、この値が高かった。尋常でなく高かったのだ。

1本あたりの価格が、380円を超えている。ヨーロッパでも、同じか高いところもあった。
日本の代理店の価格をお伝えする事は出来ないが、欧米で買うよりも日本で買う方がDTスポークは安い。

これらの理由から考えられるのは、現在のDTスポークの生産地は、アジアにある可能性が考えられたが、この時点では想像の域を超えなかった。

スポークの手配が難航し、困り果てた自分は、99年のワールドカップオセアニアラウンドで知り合ったドイツ人メカニックMartinにEメールで相談してみた。
何とか、"SUPER ZIPP"に使用する長さのDT aeroliteを入手できないかと。
その日のうちに、MartinからEメールのレスが入ってきた。

Martin:「DTより良いスポークがあるよ。値段は少し高いけれどね。でも最高だよ。」

そう。彼から紹介されたのがCX-RAYだったのだ。

下図のような形状で、材質はINOX 18/8。食器(フォーク、スプーン)やシンクに使われている18-8ステンレスである。

1cxray 14番(2mm)のスポークを冷間圧延で0.9×2.3(2.25㎜)ミリという形状に加工している。  

この下図は、テキサス大学のLSWT(ロースピードウインドトンネル)での、スポークの形状ごとに発生する空気抵抗の一つであるタービュランス(乱気流)のシュミレーションだ。

Spoke

タービュランス(渦)の発生している幅が小さく短いほど空気抵抗は、少なくなる。

上から、
・CX-Ray
・通常の楕円スポーク
・マビックと思われしブレードスポーク(フラット(扁平)スポーク)
・ノーマルスポーク
のデータになっている。

手っ取り早く空気抵抗を説明すると、空気抵抗の最大のファクターは「前面投影面積」に左右される。

前面投影面積とは、物体正面から光を当てると発生する影のことだ。

影が大きい(面積が大きい)と物体にぶつかる空気が増えるので単純に空気抵抗も増える。

その次が、「空気の流れ」だ。

いかなる物体も、空気抵抗を発生させる。

物体にぶつかった空気の分子は、掻き乱される。

空気抵抗を減らす行為とは、いかに空気の分子を掻き乱さず、掻き乱した分子を沈静化させることを言う。

沈静化とは、整流のことである。

マビックのジクラルなどのフラットスポークは幅が3ミリ以上あり、線にしか見えない控えめなスポークを面で見せ、抜群のアイキャッチを示す。

さらに、1mm×3mmと言う形状から、見た目からも触った感触でもノーマルスポークよりも空気抵抗が少ないと思わせる。

しかし、フラットスポークは空気にぶつかる前面投影面積こそ少ないが、CD値(Wake)と呼ばれる空気抵抗係数が意外と大きいのだ。

もちろん、一般的なノーマルスポークと比較するとCD値は小さいが(1.8→1.0)、オーバル(楕円)スポークのCD値はさらに小さい(0.8)。

CD値が小さければ、滑らかに空気をすり抜けることができるのだ。

スポークの形状を加工する際、フラット形状に加工するよりもオーバル形状に加工する工程のほうが複雑でよりコストがかかる。

フラットスポークは文字通り平らにするだけだが、オーバルスポークは楕円と言う曲線に加工しなければならないからだ。

この難しい作業を、常識的なコストの範囲内で量産化する事を可能にしたのが、CX-Rayに使われている18/8ステンレスだ。

18/8ステンレスと言うのは非常に耐腐食性が強い事で知られる。

だが意外に思われるかもしれないが、物性は柔らかい。

それゆえ、複雑な形状にプレス(鍛造)加工しやすい。そのため、台所のシンクや食器類に使用されている。

食器やシンクのような複雑な曲線加工が出来るのだから、スポークの曲線(オーバル)加工も簡単にできてしまう。

しかし、そんな柔らかい材質なのに、なぜCX-Rayは、最強のスポークと呼ばれているのだろうか。

それは、冷間圧延でのエアロ形状加工により材料物性が変化しているためなのだ。

CX-Rayの引っ張り強度は、ハブに引っ掛ける部分がストレートタイプが290kg/f。

Jベンドタイプ(一般的な形状のスポーク)でも、270kg/f。

国産スポーク最強である星スターブライトの引っ張り強度の数値はわからないが、昔組んだエキストリームトレッキング用MTBのホイールテンションが150kgあたりで、ワンシーズン持つことなくスポークが破断していた。

スポークのテンションが100kg/f程度だと、エキストリームトレッキングでは一山降りるまでにホイールが走行できない状態まで振れてしまって使い物にならなかったため、高テンションで組む必要があったのだ。

蛇足だが、その頃使っていたMTBはノンサスのリジットで、ビックフォークと呼ばれる、壊れない事を目的としたブットイパイプのフロントフォークだった。

下図スポークはCX-RAYのシルバーだ。

Cxray

ステンレスと言えば、光沢のある表面を思い浮かべるだろう。CX-Rayの、エアロ形状に圧延加工された部分に光沢は無く、つや消しのような表面をしている。これは"B2"と呼ばれる表面処理で、冷間圧延後、焼鈍と酸洗を行ったままの仕上げで、表面は銀白色の鈍い光沢になる。

比較的柔らかいため、エアロ形状のような深絞り性を要求される場合に用いられるが、一般にはほとんど流通していない。

この仕上げからも、CX-Rayがとても柔らかい材質出来ていることが解る。

星のエアロスター1.3mm×2.8mm(オーバルスポーク)より約30%軽量でありながら、引っ張り強度は40%前後強い。

しかしながら、CX-Rayは軽量ではあるがスポーク本体の剛性はとても低い。

一般に、剛性の高いホイールを組むためには、使用するスポークにも剛性が必要だと考える人が、ユーザーどころか、ホイールビルドをしている人間にも多くいるが、剛性の高いホイールを組むためのスポークに剛性は必要ない。

必要なのは靭性なのだ。靭性とは、粘り強さのことだ。

CX-RAYは、剛性は無いが強い靭性を持っている。

なぜ高剛性のホイールを組むのに、スポーク本体に剛性は必要無く、靱性が重要か。
→靱性があれば、より高いスポークテンションでホイールビルドが行えるため、パワーロスが少ないホイールが出来る。

この靱性を活かすホイールビルドにはNRSは自信がある。日本でもトップクラスの経験値があると自負している。なんせCX-RAYを使ったSUPERZIPPやSUPERENVE、StreetFighter、ノーマルの手組ホイールなどで使用しているからだ。

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